【コラム②】「『北の国から』2012夏」 

2012/12/15(土)第72号メルマガより



少し前のことになりますが、今年の夏、家族で北海道に行ってきました。

目的地は、富良野市。

「北海道のへそ」と言われるこの地は、ラベンダー畑や豊富な農作物で有名です。

そして、何と言っても、僕がこよなく愛する『北の国から』のロケ地でもあります。

「行けたとしても子どもが大きくなった後か、それともリタイア後かな」

そう漠然と思っていましたが、何かあってから後悔したくなかったので、思い切って家族を連れて行くことにしました(妻の目当ては農場とスイーツ、息子の目当ては旭山動物園とアンパンマンミュージアムでしたが…)。

主人公である五郎さんが住んだ5つの家、北の国から記念館、富良野プリンスホテル、純君たちの通った小学校、出会いと別れの富良野駅……etc.

たとえ町の様子は変わっても、脳裏に何度も観てきたシーンが次々と蘇ってきて、終わってみれば撮った写真は1,200枚を超えていました。

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このメルマガでも、何度か、「北の国から」のことやドラマの脚本家である倉本聰氏のことに触れてきましたが、このドラマは高校時代からずっとファンでこれまで何度も観直しています。

特に、純君(吉岡秀隆)の今一歩勇気の出ないさまを観ては、当時、自分と照らし合わせ、いつも内心でホッとしていました。  

「自分の火の不始末のせいで家が焼けたのに、最後まで『自分がやった』と白状しなかった」(小学6年生の頃)

「帰省費のはずの貯金を、趣味であるバイク購入に使ってしまい、帰省できなくなった」(高校2年生の頃)

「好きだった元彼女(横山めぐみ)が別の相手と結婚するときにも、自分の意思を伝えるどころか、気の利いた言葉一つかけられなかった」(24歳の頃) 

とにかく純君は、思春期の頃の僕自身の悩みや弱さすべてを体現してくれる存在であり、僕にとって愛すべき友人のような存在でした。

そのときは見て見ぬふりをしていましたが、実際に今、当時の自分を振り返ってみると、僕は純君に負けないほど、弱かった。

そして、10代や20代で自信も経験もない自分にとって、その「弱さ」を外にさらすことで自尊心が傷つくのが恐ろしいほど怖かった。

必然、純君のように、言い訳をしたり、正当化をしたり、誰かに助けてもらうのを待っていたりしていたものです。

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愛すべき純君に転機が訪れるのは31歳のとき。

どうしても結婚したい女性・結ちゃん(内田有紀)に出会うのです。

しかし、別居状態ではあるものの結ちゃんはまだ既婚者で、純君と一緒になることは旦那(岸谷五郎)が許さない。

実際、旦那にその存在がばれてしまった純君は、旦那とその仲間たちに袋叩きに遭ってしまいます。

でも、この勝ち気で乱暴な旦那に、純君は自ら再度会いに行き、このドラマ史上初めて、男を見せます。

「お願いします、お願いします、俺、改めてお願いします。

俺、黒板純という者です。

逃げも隠れもいたしません。31歳、独身です。

絶対結ちゃんを幸せにします。

結ちゃんをください!

俺と結婚させてください!

お願いします。この通り。

お願いします!、お願いします!
結婚させてください、お願いします!……」

普段は斜に構えて熱くなりきれない純君が、傷だらけの顔で、土下座をしてこう叫び続けるのです。

そのあまりにも格好悪いシーンが、僕は大好きです。
  
これまで自分の弱さを隠し続けていた純君が、初めてなりふり構わず勇気を絞って、自分の気持ちに素直になった。

そんな格好悪さが、23歳の僕にはとてもまぶしく思えたのです。
     
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純君と結ちゃんが結ばれて終わる最後のスペシャルドラマ『北の国から 2002遺言』から今年で丸10年。

23歳の若者だった僕も33歳の父親になり、純君より五郎さん(田中邦衛)に自分を重ねることも増えてきました。
息子にだって、娘にだって、平気で涙や弱みを見せられる五郎さん。自分もいつか、そんな本当の強さを手に入れたい。

「北の国から」はこれからも、僕の目指すべき場所であり、同時に、いつでも立ち返れる故郷であり続けます。

(了)